「こんぴら参りは、こんぴらさんにお参りしたら、それでおしまい」
あなたもそう思っていませんか? 石段を登りきって、御本宮でお参りして、おみやげを買って帰る。もちろん、それで十分すてきなこんぴら参りです。
ちょっと待ってください! 瀬戸内海をはさんだ向こう岸に、「こんぴらさんとセットでお参りしてね」と、ずっと呼びかけ続けている山があるのです。
今回は特派員、香川県を飛び出しました。行き先は岡山県倉敷市の由加山(ゆがさん)。そこで見つけたのは、こんぴらさんへの、思っていた以上に熱い気持ちでした。
1. 岡山なのに、あちこちに「こんぴら」の文字
由加山の登り口に立って、まず驚きました。
境内に入ると、看板にも幟(のぼり)にも「こんぴら」の文字がたびたび現れます。ここは岡山県のはずなのに……。
その答えが、この「両まいり」という言葉です。
江戸時代、讃岐の金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)と、備前の由加山の瑜伽大権現(ゆがだいごんげん)の両方にお参りする「両参り」が流行したと伝えられています。海を渡って讃岐と備前を行き来するのが、当時の参拝の一つの型だったのですね。
境内の案内板には、由加神社本宮は「四国こんぴらさんとの両参りのお宮として知られる」と書かれていました。こんぴらさんの名前を、こんなに堂々と、こんなに何度も掲げてくれている。香川から来た身としては、なんだか照れくさいような、うれしいような気持ちになります。
2. 石段の一段ごとに、厄除けのお賽銭箱
登り口には「厄よけ石段」の文字。登りはじめてすぐ、足が止まりました。
……一段ごとに、小さなお賽銭箱が並んでいるのです。
由加山は「厄除けの総本山」として知られ、表参道には19段、25段、33段、42段、61段と、厄年にちなんだ厄除けの石段が続きます。箱をよく見ると「ゆが・こんぴら二神会」の文字。ここにも、こんぴらの名がありました。
実はこの光景、どこかで見たことがあります。数年前、四国遍路で徳島県の薬王寺を訪れたとき、厄除けの石段の一段一段に、お賽銭が置かれていたのです。
海を渡っても、厄を落としたい気持ちは同じ。一段ずつ願いを置きながら登る人の姿が、目に浮かぶようでした。
3. 備前焼の狛犬に、デジャブ
さすが岡山県です。境内では、備前焼の鳥居や狛犬が迎えてくれます。
大鳥居は「日本一」とうたわれる備前焼の鳥居なのですが、この日はあいにく改修中。覆いの隙間から、そっとのぞかせてもらいました。
この狛犬を見上げたとき、ふと思いました。……これ、知っている。
そうです。こんぴらさんにも、備前焼の狛犬がいるのです。
石段を100段ほど登った「一の坂」のあたり。案内板によると、天保十五年(1844)に備前岡山の「長栄講(ちょうえいこう)」が奉納したもので、備前焼の狛犬のなかでも一、二を争う大きさなのだそうです。
岡山の人たちが、海を渡って、こんぴらさんに備前焼の狛犬を納めていた。由加山で見た狛犬と、こんぴらさんの狛犬。二つの山が、焼き物でもつながっていたのですね。デジャブの正体は、両参りの歴史そのものでした。
4. 休憩所の窓から、あの山が見える
境内の休憩所で、ひと息つきました。何気なく外を眺めていると、窓辺にこんな案内がありました。
「向かう正面に見えるのは ゆがこんぴら両まいりの四国こんぴらさん 琴平山(象頭山)です」
えっ、と思って目をこらします。
手前の山の向こう、空との境目に、うっすらと横長の山影。……ありました。象が寝そべって頭を伏せたような、あの見慣れた形。象頭山(ぞうずさん)です!
ふだん琴平のまちから見上げている山を、海の向こうから眺めている。これは、かなりテンションが上がりました。昔の参拝者も、この山を眺めて「次はあちらへ」と思ったのかもしれませんね。
晴れていても、かすんでいると見落としてしまうほどの小さな姿です。由加山を訪れたら、ぜひこの窓辺に立って、探してみてください。
5. 由加山は、あんころ餅一本で勝負
参道沿いには、あんころ餅を売る店が2軒ありました。
神社の境内の売店にも、あんころ餅。どうやら由加山は、あんころ餅一本で勝負しているようです。門前の名物といえば、あれこれ顔ぶれがそろう琴平のまちの住人としては、気になるところです。
もちろん、おみやげに買って帰りました。
竹の皮の包みをほどいて、いただきました。素朴で、味わい深い。一本で勝負しているのも、うなずける味でした。
ちなみに、この石段、全部で何段あるのでしょう? 私は数えそびれてしまいました。ぜひ、あなたの足で確かめてみてください。
まとめ:こんぴら参りの「もう半分」へ
由加山を歩いて感じたのは、こんぴらさんへの、思っていた以上に熱い気持ちでした。看板にも、幟にも、お賽銭箱にも、こんぴらの名前。そして休憩所の窓からは、象頭山。
こんぴらさんの石段を登ったことがある人なら、一の坂の備前焼の狛犬を思い出してみてください。あの狛犬は、海の向こうから来たお客さんだったのです。
次のこんぴら参りは、瀬戸大橋を渡って、由加山とあわせた「両参り」にしてみませんか。石段の段数は、あなたの足で。あんころ餅の味は、あなたの舌で確かめてくださいね。
カテゴリー:歴史・文化/特派員おすすめ情報
エリア:町外/琴平